森の中で気ままに日々過ごし、動物とも仲良し、食事はもちろん森で調達した食べ物。子供の頃、そんな木から木へ自由に渡り行く森の野生児ターザンにあこがれた人も多いのではないだろうか。
元海軍でフィットネスフリークのミック・ドッジが森に「帰った」わけ
ミック・ドッジは元米海軍で、フォート・ルイス駐屯地で重工機を扱うに従事していた。だが25年前、ミックはオリンピック国立公園の西側に位置する温帯雨林のホー・レインフォレストに「帰ろう」と決心した。
それは突如思いついたことではない。ホー・レインフォレストで暮らすことは彼が長い間夢見ていたことだった。
ミックの曽祖父母はホー・レインフォレストを生活の地としていたという。そう、ミックはホー・レインフォレストの先住民だったのだ。
ミックは若い頃、世界中を旅し、フィットネスにのめり込んでいた。アメリカによくいる普通の青年だ。そんな彼がなぜホー・レインフォレストに戻ってきたのか。
「都会の生活で足がひどく痛かったんだ」
62歳になった今、ミックの住むホー・レインフォレストにはトレーニング・マシンを備えたジムはない。その代り森全体が彼のジムだ。ミックは裸足で森の中を行き来し、森の動物たちと遭遇すればおしゃべりにいそしみ、食料も自ら調達する。
彼が自分の「ホーム」だというホー・レインフォレストに戻ったのは、都会の生活で疲れた心と体を癒すためだった。ホー・レインフォレストに戻った彼の足の痛みはみるみるうちに消え去った。そして足の痛みだけではなく、腰、首、そして心の痛みまでもが消えてなくなったと彼は言う。
「裸足で地を感じ、地球に教えてもらうことで、自分は火のように舞い、風のように走り、石のように強くなり、そして水のように流れることができたんだ」
足を怪我したこともあった。凍傷によって指を失いそうになったこともある。その後彼は、水牛の皮で作った膝丈のブーツをたまには履くようになったと言う。苦い過ちから学んだ生活の知恵だ。
食事は森の動物たちに習え
彼は森で見つけた食べられると思う物は全て口にすると言う。クーガーがアカシカをやっつけると森中の動物たちがたかりにやってくるが、ミックも動物たちに習い「たかり」に参加する。
だがそんな彼にも1つ、都会の食べ物で手放せなかったものがある。「チョコチップ・クッキー」だ。森の中の彼の貯蔵庫にチョコチップ・クッキーを常備しているそうだ。
彼が手放せないチョコチップ・クッキー、おばあさんの思い出が詰まったお菓子なのだとか。家族のルーツを大切にするミックのこと、納得の理由だ。
リアルターザンの名がぴったりのミックだが、人は彼を原始的な生活に陶酔しているクレイジーで淋しい男と思うだろう。だが淋しいはずがない。彼には動物たちがいて、地に足がついている限り動物たちと分かち合えるのだから。
ミックは文明や都会の生活を恋しいとは思わないが、完全に忘れ去ろうとしているわけでもない。自分のペースで原始的な生活と都会の生活を行き来している。都会の生活に戻るのはおそらくチョコチップ・クッキーを調達するためだろう。
「自分の家族は数百年の長き時間をかけて近代文明を回避する術を極めてきた。自分がすべきことはただ一つ、足の赴くままに進めばいいんだ」
ミックの発する言葉一つ一つが心に響いたのでは?生涯森で暮らす人やグリーンライフにこだわって本格的に森に潜む人がメディアに取り上げられたことは多々あるが、無理をして現代社会に反抗しているのではないかと感じていた。
だがミックの場合、時に都会に戻って違う空気を吸うことでまた自分の居るべき場所-ミックの場合はホー・レインフォレスト-の素晴らしさや心地良さが身に染みて分かるのだろう。現代社会に戻った時に調達するチョコチップ・クッキーは、きっと森の仲間たちと分け合っているはずだ。