ヘッドフォンの歴史を辿ってみました。

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未定 詳細なし

今や私たちはヘッドフォンを当たり前のように使っている。その歴史を紐解いてい
くのが今回の特集だ。時代に応じて変化していくヘッドフォンを、当時流行っていた音楽
とセットで紹介していく。懐かしいメロディーが流れていた時代を感じつつ、未来のヘ
ッドフォンに思いを馳せてみてもいい。それでは、時計の針を19世紀の終わりまで戻して
みよう。

最初に紹介するのは1881年のヘッドフォンだ。これは音楽を聴くためというより、電話交
換手のためにつくられたもの。ドイツの作曲家のヨハネス・ブラームスが名声を確立して
いた時代は、日本史に当てはめると、明治14年。教科書で習ったことのある自由民権運動
が盛んな頃だ。それほど昔にヘッドフォンの原型が生まれたのだ。

1895年のヘッドフォンは何ともへんてこな形状をしている。柄付きで下から手で支えるデ
ザインを考案した人が現代にタイムスリップしたら自身が発明したものとのギャップに驚
くはずだ。アメリカ合衆国で現在も歌い継がれているAmerica The Beautifulが発表された
年は、明治28年にあたる。日清戦争後の講和条約・下関条約が締結された年だ。

1910年のヘッドフォンは形状だけ見ると、現在使われているものに近づいてきた感があ
る。一方でひものようなケーブルは時代を物語っている。数多くの交響曲の生みの親、グ
スタフ・マーラーはこの時代を生きた。明治43年は“世界のクロサワ”こと黒澤明監督が生
まれた年だ。

1937年は現在に通じるダイナミック型ヘッドフォンが登場した。コードも27年前よりし
っかりしたものに見える。世界中に不穏な空気が流れようとしていた時代だけに、日本で
は戦争をモチーフとした曲が流れていたようだ。現在でも活躍する、永遠の若大将・加山
雄三が、そして昭和の歌姫・美空ひばりはこの年に生まれた。

1949年はオーストリアのAKG製のヘッドフォンが発売となった。以前のものに比べて、
随分とスタイリッシュなものになった。このヘッドフォンのおかげで、AKGは音響メーカ
ーとして欧米で確固たる地位を築くことに。日本は戦後まもない時代。後に国民栄誉賞を
受賞することになる藤山一郎の「青い山脈」がヒットを飛ばしていた。

1958年を代表するヘッドフォンは、業界に新星の如く現れたアメリカのジョン・C・コス
によるもの。彼の名を冠したコス社はしばらく市場を支配することに成功する。焼け野原
からの復興を遂げた日本では、村田英雄が「無法松の一生」で、五月みどりが「お座敷ロ
ック」でそれぞれデビューを果たしている。

1959年は日本のスタックスが世界初のエレクトロスタティック型ヘッドフォンを発表した
年。東京でお披露目されて、翌年に販売を開始したSR-1は時代を物語る貴重な“史料”だ。
この年は年末の風物詩として定着している日本レコード大賞が創設された。第1回の大賞
は水原弘が「黒い花びら」で受賞した。

1968年にはコスがメイド・イン・アメリカのエレクトロスタティック型ヘッドフォンを売
り出した。同年のイギリスではビートルズが「ヘイ・ジュード」をリリースしている。ロ
ンドン五輪の開幕式のクライマックスで演奏されたように、現在でも多くの人に愛されて
いる曲をこのヘッドフォンで聴いた人も少なくないはずだ。

1979年はヘッドフォン市場に深く関係する、音楽プレーヤー史に残る製品が発売された。
そう、ソニーのウォークマンだ。音楽プレーヤーは携帯するもの、という概念が明確にな
った。日本の音楽シーンには現在も歌い継がれる名曲が登場した。サザンオールスターズ
の「いとしのエリー」や水谷豊の「カリフォルニア・コネクション」などだ。

1980年のヘッドフォンは見栄えに変化が生じている。コンパクトな仕様で髪型の崩れを気
にせずともよくなった。現在にも通じるスタイリッシュなデザインの出現と、斬新な音楽
性で当時の若者から熱狂的な支持を受けたイエロー・マジック・オーケストラの活躍が重
なったのは偶然だろうか。現代のテクノポップをリードする中田ヤスタカが誕生した年で
もある。

1997年のヘッドフォンにもなると、今の若者にも馴染み深いものに。同年、ソニーはネ
ックバンド型のヘッドフォンを発売した。長年頭を押さえつけてきたヘッドフォンの概
念を崩す、画期的な発明だった。当時はJ-POPが全盛を極めていた時代で、年間シングル
1位に輝いたのは安室奈美恵の「CAN YOU CELEBRATE?」。

2000年は米国・ボーズからノイズキャンセリング型のヘッドフォンが発売された。バッテ
リーケースがついているタイプは批判を浴びることになったものの、飛行機の中でも快適
に音楽が楽しめるように。テクノロジーを駆使した進化は前世紀には夢物語だったに違い
ない。シドニー五輪の年はZARD、モーニング娘、福山雅治らの歌をヘッドフォンでも聴
いていた人が多かったことだろう。

2001年はなんといってもiPodが発売になった年。後の音楽業界に大きな影響を及ぼしたア
イテムで、白いコードがポケットから出ている姿を多く見かけるようにも。ヘッドバンド
だけではなく、イヤホンを見かけることも増えたのではないか。21世紀の幕開けとなった
年、マイケル・ジャクソンのアルバム「インヴィンシブル」が大ヒットを記録した。

2008年を代表するヘッドフォンは、モンスターケーブルとビーツ・エレクロニクスがタ
ッグを組んで生まれたもの。若者からの支持を裏付けるように、NBAのスーパースターが
バスからロッカールームに向かう際、このヘッドフォンを身に着けているシーンがしばし
ば見受けられた。あのレディー・ガガがデビューアルバムをリリースしたのはこの年にあ
たる。

最後に2012年のヘッドフォン。ラッパーのリル・ウェインが聴いているのは、宝飾が輝い
ている100万ドルのヘッドフォン、これまたモンスタービーツ製だ。ヘッドフォンであり
ながら、ファッションアイテムの一つにも見える。1881年にはなかった発想だろう。これ
から先、もしかしたらヘッドフォンがなくても音楽を楽しめる時代が来るかもしれない。
しかし、それまではこれまでのようなヘッドフォンの進化を楽しみにしたい。

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